サッカーはルールが簡単でだれでも楽しめるスポーツです。しかし高度な戦術による奥深さもサッカーの面白さの一つです。
「戦術がわかれば観戦がより楽しくなりそう!」「もっとサッカーを深く知って楽しみたい!」という人は多いのではないでしょうか。
あるいは「サッカーの勉強をしたのに、観戦に全然活かされない……。」「サッカーの分析ってどうすればできるんだろう……。」と悩んでいる人も多いと思います。
この記事ではそういった人のために、サッカーの戦術を学ぶうえで、ここだけは押さえておくほうがいいと思うポイントを3つ紹介します。
テクニックについて語るのを恐れるな
サッカー未経験者で戦術を勉強している人の中には「未経験者なのにサッカーについて語っていいのかな。」と悩んでいる人がいると思います。しかし気にする必要はありません。経験者だからといって必ずしもサッカーに詳しいわけではなく、未経験者でもよくサッカーを理解している人はいます。
しかし多いのが、テクニックについて語らず、戦術の話ばかりな人です。「サッカー経験がないからテクニックについては分からないけど、戦術は誰よりも分かっている」という姿勢は危険です。あるプレーが上手くいった理由、ミスをした理由を考えるときに、その原因が「戦術」なのか「テクニックやそれ以外」なのか分からず、すべて戦術によるものと考えがちになるからです。
ここでキックフェイントの動画を2本紹介します。
これがフェイントだとすぐ分かりましたか?サッカー中継でこれらのテクニックを見ても、フェイントをかけていることにすら気付かないと思います。
こういった点では野球ファンの姿勢は参考になります。野球ファンは未経験者でもプロのフォームにどんどん意見します。日本では野球の歴史は長く、そういった文化ができあがっています。
サッカーファンも戦術だけでなくテクニックのことも語っていきましょう。最初はまちがいだらけでも、続けていけば理解は深まります。
戦術で勝っても試合に勝てるとはかぎらない?
サッカーはジャイアントキリング、大金星が起こりやすいスポーツです。なぜでしょうか。ここでは統計からサッカーのゲーム性をみていきましょう。
アクチュアルプレーイングタイムは60分
サッカーは1試合90分です。しかしボールが外に出ているあいだも時計は進むので、実際プレーする時間はもっと短いです。
アクチュアルプレーイングタイムということばがあります。これはボールが外に出たりファウルなどで試合が止まっている時間をのぞいた時間のことです。統計によるとプロの試合のアクチュアルプレーイングタイムは約60分だそうです。(※リーグやシーズンによって差がありますが大抵55~65分です)
相手ボールを奪ってから15秒以内でゴールは決まる
次はどれくらいの時間があればシュートを打てるかを考えてみましょう。
「流れの中の約75%のゴールは、相手ボールを奪ってから15秒以内のもの」というサッカー解説者、山本昌邦さんの理論があります。ここではこの統計自体より、15秒でゴールできるという部分に着目します。
60分の中に15秒は240回あります。つまり理論上は1試合に両チーム合計200本以上はシュートを打てるはずです。しかし実際はどうでしょうか。以下はイングランド・プレミアリーグ5シーズンの統計です。
1試合のシュート数は24.9本
プレミアリーグ5シーズン(16-17~20-21)、1900試合の統計
総シュート数 | 47254本 |
総ゴール数 | 5269ゴール |
1試合の平均シュート数 | 24.9本 |
1試合の平均ゴール数 | 2.77ゴール |
ゴール率(総ゴール数/総シュート数) | 11.2% |
※「1試合の平均シュート数」は、両チームの合計シュート数です。「1試合の平均ゴール数」もおなじく両チーム合計です。
60分の中に240回チャンス(時間)があります。しかしシュートは両チーム合わせても平均24.9本。ゴールはその内2、3本しか入りません。これだけゴールが入りにくいスポーツだということです。
0ゴールの確率と3ゴール以上取れる確率に差はない
さらに話を進めましょう。仮におなじように試合を進めたとしても毎試合確実にゴールできるのでしょうか。上のデータを参考に、1試合に片方のチームがゴールになる確率11.2%のシュートを13本打った場合、何ゴールできるか、確率を計算してみます。
シュート数13本、ゴールになる確率11.2%で計算。
ゴール数 | 確率 |
---|---|
0 | 21.5% |
1 | 35.1% |
2 | 26.4% |
3以上 | 17.0% |
ex)2ゴールのとき、P=13C2*(0.1115^2)*(0.8885^11)=0.264
表を見てわかるように、0ゴールの確率と3ゴール以上の確率はそれほど差がありません。ある試合は大量得点で、別の試合ではおなじような内容なのに無得点ということもあり得るということです。
今は1試合90分で13本シュートを打ったときを考えました。しかしリーグ戦なら1シーズン38試合、3420分あります(20チーム、ホーム&アウェイの場合)。上の統計では1シーズンで、1チーム平均473本シュートを打っています。これだけ数が大きいと1試合の結果ほどばらつきはなく、実力通りの結果になりやすいです。
つまり「ゴールが入りにくいサッカーの競技性」と「90分(実質60分)という競技時間」がジャイアントキリングを起こりやすくしている要因です。戦術的にうまくいっていても運悪く負けることもあるということです。
神は細部に宿る
サッカーというのはテクニック、戦術だけでなく、案外それ以外の小さなことで勝敗が決まるものです。ここで元日本代表監督・岡田武史氏のことばを見てみましょう。
「勝負の神様は、細部に宿る」
試合の翌日の新聞などは、戦術論やシステム論で溢れています。
岡田メソッドp273、274より引用
戦術論やシステム論は大切ですが、私の感覚では、勝負を分ける8割は小さなことで、たった1回の「まあ大丈夫だろう、俺1人くらい、これくらいで」が勝負を分けると思っています。
私が監督を務めた2010年の南アフリカW杯まで、日本代表はアウェイのワールドカップで1勝もしたことがありませんでした。そこで、それまでのワールドカップでのピンチとチャンスをビデオに編集して選手に見せ、次のように聞きました。
「この中に、戦術の問題やシステムの問題だと思うものはあるか?」
戦術の問題もシステムの問題も、1つもなかったのです。
2006年のドイツW杯でオーストラリアに逆転されたときも、ケーヒルのシュートに対して、
「まあ、ここからなら大丈夫だろう」と足を出しただけです。あの場面でボールにスライディングをしていたら、歴史が変わっていたかもしれません。
トップレベルの試合でも、そういった小さなことで勝負が決まるということです。
まとめ
サッカーではテクニック、運、小さなことで試合が決まることが多いです。この視点が抜けると間違った分析、間違った戦術理解になってしまいます。
戦術が必要ないと言っているわけではありません。サッカーを分析するときに、どれが戦術の問題でどれがテクニックなどの問題か正しく見分けることが正しい理解につながります。