ポジショナルプレーということばを知っていますか。
現在世界で1、2を争う名将グアルディオラがドイツ・バイエルンミュンヘン時代に採用したことで話題になりました。2019年、J1を優勝した横浜Fマリノスがポジショナルプレーを採用したことで再び話題になりました。
しかし実際どんな戦術かわかりますか。解説を読んでも、「結局ポジショナルプレーってなに?」となったのではないでしょうか。
今回はそういった人のためにわかりやすく解説してみました。
ポジショナルプレーとは?
ポジショナルプレーとは「良い位置で待つこと」
ポジショナルプレーとは、ポジショニングを重視したサッカースタイルのことです。
ポジショナルプレーを一言であらわすなら「良い位置で待つこと」です。具体的なことはあとから説明しますが、密集せずに「良い位置で待つこと」が大事だということです。
ポゼッションサッカーとはちがうの?
よく似たことばにポゼッションサッカーというものがありますが、これとはちがいます。
・ポジショニング=位置
・ボールポゼッション=ボール保持
ポジショナルプレーとはポジショニング=位置についての考え方なので、ポゼッションとは別です。
ポジショナルプレーということばが分かりにくいなら、「ポジショニング」についてのプレーと覚えましょう。
ポジショナルプレーとは方針(スタイル、コンセプト)のこと
「結局ポジショナルプレーってどんな戦術なの?」と思いますよね。実はポジショナルプレーというのは方針(サッカーのスタイル、コンセプト)であり、具体的な戦術の話ではありません。
たとえば「攻撃的なチーム」という方針のチームがあるとします。しかしこれは方針であって、具体的な戦術じゃありません。この方針をもとに、「サイドでボールを持ったときはこうしよう」「カウンターのときはこうやって守ろう」といった具体的な戦術を考えます。
ポジショナルプレーの場合も同じです。ポジショナルプレーという方針のもと、具体的な戦術を考えるわけです。
良い位置とは?
数的優位
ここからはポジショナルプレーにおける「良い位置」とはなにかを説明していきます。
[ケース1]
FWの選手が1対1になったとします。そこでDFの選手がオーバーラップして2対1になるケースがよくあります。
このように相手より人数が多い状態のことを数的優位といいます。
他のケースも見てみましょう。
[ケース2]
DFがボールを持っています。味方DFと相手FWが2対2のケースです。ここでMFが下がってくると3対2となり数的優位が作れます。
サッカーは11対11でおこなうスポーツです。もとの人数は同じなので動いて数的優位をつくることで有利に試合をはこべます。
位置的優位:元の位置で待つことも大事
上の説明を聞くと「フォーメーションを無視して動きまわればいいんだ」と思うかもしれません。しかし必ずしもそうではありません。
味方MFがボールを持っています(左図)。ここで数的優位を作ろうとして、ボールに近寄って行ったらどうなるでしょうか(右図)。このように味方が近寄ることで相手も密集してしまいます。
つまり元のほうが良い位置なので、そこで待つことも大事だということです。これを位置的優位といいます。
結局良い位置ってどこ?5レーン理論で解説
5レーン理論とは
数的優位を作るためには動くほうがいいけど、動きすぎても相手が密集してしまいます。 結局良い位置ってどこなのでしょうか。それを説明するために5レーン理論というものがあります。
5レーン理論とは良い位置を説明するためにピッチを5つに分けたものです。
一般的に知られているのはセンターと両サイドの3つに分けるものです。これを5つに分けたほうが説明しやすいということで用いられています。
攻撃、守備の基本をおさらい
良い位置について説明するために、ここで攻撃、守備の基本についておさらいしましょう。
守備には大きくわけて2つ、マンツーマンとゾーンディフェンスがあります。ゾーンディフェンスはDF、MFがそれぞれヒモでつながっているように一緒に動きます。左にボールがいけば左、右にいけば右に動きます。前後も同様にして、チームがひとかたまりになって動きます。
攻撃側の狙いは、DFラインの裏です。オフサイドにならずに抜け出せればチャンスです。そしてそのためにはDFとMFのライン間からパスを出すのが効果的です。
ボールがMFを越え、DFを越えるためには、相手MFのつながりをバラバラにしてライン間でフリーでパスを受けることが目的となります。
斜めのパスでMFをバラバラに
ではどのようにすれば相手MFのつながりをバラバラにできるでしょうか。
守備側にとって嫌なのは斜めのパスです。なぜなら斜めのパスは縦パス、横パスの両方のメリットがあるからです。
・横パス:スライドかマークか迷いを生む
・縦パス:ギャップを生む
斜めのパスなら1本のパスで前後左右にゆさぶることができます。なのでMFのつながりをバラバラにするには斜めのパスが有効なのです。
「良い位置」とは「5レーンを意識してひし形」の位置
上で説明したように斜めのパスが有効なので、ボールを持っている選手の斜めに位置取ることが良いです。しかし近すぎても遠すぎてもダメです。ではどれくらいの距離間がいいのでしょうか。
ここで5レーン理論がでてきます。
このように5レーンを意識して、斜めの選手、MFの裏で受ける選手と4人でひし形になるのが理想です。
別のレーンでボールを持ったときもおなじようにひし形をつくります。もし手前の3人しかいないときでも斜めのパスで崩して相手MFの裏でパスを受ける、これが基本です。
この5レーンを参考にひし形になる位置、これが良い位置です。
偽サイドバックとは
ポジショナルプレーを志向するチームにはよく「偽SB(サイドバック)」という特徴的な動きがあらわれます。
本来SBはサイドのレーンを上下するのが主な動きです。しかし上の5レーン理論の説明でわかるようにWG(ウイング)とおなじレーンにいるのは良い位置とはいえません。
なのでSBが1つ内側のレーン(ハーフスペース)に動いて斜めの関係になります。
SBにもかかわらずボランチのような位置でプレーすることから偽SBとよばれています。グアルディオラ監督時代のバイエルンではWGのリベリーとSBのアラバがこの関係で、そのことからアラバロールともよばれていました。
ではポジショナルプレーを志向するチームはかならず偽サイドバックなのでしょうか。
さらにさかのぼって、グアルディオラ監督時代のバルセロナでは右WGがメッシ、右SBはダニエウ・アウベスでした。ダニエウ・アウベスはブラジル人SBらしくサイド攻撃が得意な選手です。
このときはメッシが内側、ダニエウ・アウベスが外側というように選手の特性に合わせています。つまりポジショナルプレーだからといって、偽SBである必要はないということです。
数的優位、位置的優位、質的優位とは
実はポジショナルプレーの定義というものはあります。
ポジショナルプレーとは数的優位、位置的優位、質的優位という3つの優位を求めた概念です。数的優位、位置的優位についてはすでに説明したので、質的優位について説明します。
質的優位とは選手の質による優位です。例としてグアルディオラはウイングのところで1対1を作り突破させることを1つの戦術としています。1対1で勝てそうな選手のときは、無理に数的優位をつくる必要はありません。
結論:ポジショナルプレーとは良い位置で待つこと
3つの優位性のうち、直感で理解しにくいのは位置的優位だと思います。数的優位、質的優位はどのチームでも見ることができます。
なので「ポジショナルプレーでは位置的優位を得ることが重要」と覚えましょう。数的優位をつくろうとして近づきすぎるのではなく、5レーンを意識して良い位置で待つことが大事なのです。
まとめ
・ポジショナルプレーとは、「ポジショニング」を重視したサッカースタイルのこと
・数的優位(近づいてボールに関わる人数を増やす)だけでなく、位置的優位(良い位置で待つこと)が大事
・「5レーン」と「ひし形」を意識すると良い位置が見えてくる
ポジショナルプレーについてなんとなくわかったのではないでしょうか。
ポジショナルプレーは攻撃だけでなく守備でも重要な概念です。良い距離間で攻撃しているということは、ボールを奪われたときも良い距離間にいるからです。
ポジショナルプレーを志向するチームは海外にもJリーグにもあります。観戦する際は注目してみてください。